革の製造工程で製品としての価値を決定づける着色などの仕上げ作業。
バッグや靴などの商品では出来栄えや経年変化などの風合いにも影響を与える重要な工程です。
革の状態を把握して薬剤の選定や調合だけでなく環境なども考慮する仕上げ作業に求められる経験や知識。
今回は、日本最大の皮革生産量を誇る姫路で活躍するアートケミカル商会の川崎さんに仕上げに関してごいろいろ質問させていただきました。
アートケミカル商会について
【代表】
川﨑 哲夫
【事業内容】
- 皮革カラーリフォーム
- 皮革製品のリペア・修理・補修
- 各種ブランドのリペア
- 皮革専用塗料取り扱い
- 期間講習の実施・職人の育成
【住所】
〒671-0218
兵庫県姫路市飾東町庄178-7
【TEL】
079-253-8628
【FAX】
079-253-2765
【URL】
https://hikakuripair.com/
目的によって異なる多彩な革の仕上げ
>> 革の仕上げは、顔料仕上げや型押しなど多彩ですが、ポピュラーなものというと顔料仕上げでしょうか?
そうですね。顔料ベースの仕上げに染料を使って色に深みをだすセミアニリン仕上げもあります。
その他、銀をガラスで擦るガラス仕上げや模様をつける型押しなど10種類くらい。(注)
ただし、ハードな革やソフトな革などそれぞれの仕上げに適した素材の革でなければなりません。
例えば、クロコの型押しは仕上げを行う場合は、事前にガラス仕上げのように銀を擦って表面をツルツルにします。(注)
普通の銀付きの革のままだと型押しを施しても時間が経つと毛穴が表面に浮き上がってくるんです。
そのため、型押し前に銀を擦って毛穴を潰した状態にする必要があります。
>> 完成度を高めるために厚みや硬い、柔らかいなど目的の仕上げに応じた革のなめしや加工処理が必要なのですね。
(注:銀)脱毛処理などを施されたなめし革の表面。
(注:クロコの型押し)ワニ革のような模様を施した型押し
革の着色。染色から始まる色づくり
>> 目的の仕上げに適した革の加工処理ですが、革の色付けとなる塗装仕上げも同じでしょうか?
全く異なる色合いのものを着色すると靴など実際の商品をつくった際に下地の色が目につく場合があります。
通常は下地となるベースカラーをタイコを使って染色します。
革靴の製作で木型に革をはめて引っ張る吊り込み作業があるのですが、白っぽい下地の染色した革に黒や茶色などを着色すると皮の毛穴が広がって下地の色が薄っすら見えてしまう恐れがあります。
やはり、下地となる染色の影響はやはり大きいですね。
銀浮きしやすい重ね塗り
>> 場合によっては下地と異なる色合いで塗装する事もあると思うのですが、出来栄えが下地の影響を受けそうな場合は重ね塗りなど行うのでしょうか?
重ね塗りはもちろん行いますが、塗りすぎると銀浮きしたり革が固くなってしまうので注意が必要ですね。(注)
(注:銀浮き)革の表層とその下の真皮層との結合がゆる緩んだ状態となり、表面に浮き上がったように見えるシワのこと。
折り曲げて使う革の特性を考えた仕上げ剤づくり
>> 皮革用の塗料はどのようにして作られるのでしょうか?
皮革用の塗料は顔料ベースのものが主体。木工用に使われる塗料や薬剤も使われます。
革はバッグや靴などの製作で折り曲げて使われるという特徴があります。そのため表面に色割れが生じやすくなる問題があります。
そのため、色々な対策を施していきます。
例えば、色割れ対策ではバインダーと呼ばれる可塑性のアクリル樹脂を顔料に含ませて塗料に柔軟性を与えます。
顔料仕上げは色ムラが少ない分、革の質感や風合いが出にくいので当社では強度の補強も兼ねてラッカーで表面に光沢を持たせていきます。
経験や知識を積み重ねてつくるオリジナルの仕上げ剤
>> 皮革専用の塗料や薬剤は意外と数が多くないようですが、仕上げやリペアの要件によっては困難なものはないでしょうか?
残念ながら、他の工業用の塗料や薬剤と比べて皮革用は需要が少ないので研究開発は盛んではありません。
そのため、経験や知識・ノウハウに加えてありとあらゆるものを使って独自に調合したオリジナルの薬剤を使うことがあります。
例えば、水を弾くラッカー仕上げの革に再度着色するような作業があるとします。
そのような場合、オリジナルのアンカー(色止め・密着剤)と呼ばれる薬剤を混ぜてラッカーを水性塗料のように扱える状態にして作業します。
革も日焼け?環境に敏感な革と薬剤
>> 経年変化や風合いを楽しむのが革の醍醐味ですが、日焼けなど紫外線の影響を受けると聞いたのですが本当でしょうか?
そうですね。薬剤によっは蛍光灯の光でも影響を受けるものがあります。
特に染料は日焼けしやすいですね。一方で顔料は紫外線に強いといった特徴があります。
>> 紫外線以外で温度や湿度など環境の受けやすいものはありますでしょうか?
湿度よりは気温に注意を払います。ラッカーなどはシンナーを使うので乾燥して蒸発してしまいます。
そのため気温が高い時は、乾燥するまでの時間を遅らせる薬剤を使って調整します。
作り置きができない革の塗料
>> 塗料や薬剤など一般的に工業製品などはまとまった単位でロット生産されますが、皮革用の塗料や薬剤なども同じく作り置きできるのでしょうか?
塗料は空気に触れる液体表面が固まりやすいので保存できても一ヶ月程度でしょうか。
特に水性塗料などは夏場は水が腐ってだめになる場合が多いですね。
色々な薬剤を調合した場合、成分によっては容器の底に沈殿しやすいものがあり、そのまま使おうとすると沈殿物の小さな粒が革の表面に付着するので扱いにくくなります。
なので、作り置きなど作業する革の枚数分以上の大量の塗料は作れないですね。
出来栄えが違う機械作業と手噴き作業での仕上げの違い
高度な技術が要求される革の手噴き作業
>> 仕上げで塗料や薬剤の塗布は専用の機械による自動作業ですが、職人さんの手噴き(手作業)のほうが丁寧なイメージがありますが実際はどうでしょうか?
機械だと革一面に色ムラなく仕上がります。しかし、顔料を使った場合は色ムラがない反面、革の質感や風合いが出にくいんです。
手噴きだと色ムラでなく多少の濃淡で変化をつけて味わい深い仕上げができますが、実はかなり高度な技術で上手くできる人は多くありません。
手噴きは専用の作業台を使うのですが、少し傾いた状態なので液垂れしやすく噴き付けの加減が難しいですね。
なので経験を積み重ねた高度な技術が要求されます。