コンビなめしとはタンニンなめしとクロムなめしの長所を取り入れたハイブリッドなめし
皮革のなめし製法で「コンビなめし」というものがあります。
moeのバッグで使う革は日本皮革産業の中心地である姫路のタンナーが手掛けるコンビなめしの革を使っています。
コンビなめし、または混合なめしともいわれるこの製法ですが、コンビとは英語での「combination」で「組み合わせ」を意味します。
コンビなめしは、数多くあるなめし製法の中で、それぞれ特色のあるものを組み合わせます。
主な組み合わせとしてはヌメ革で有名なタンニンなめしと、革製品で圧倒的なシェアを持つクロムなめしの2つの製法のハイブリッドなめしになります。
皮革のなめし製法には、伝統のある姫路の白なめしやタンニンなめしなど多くありますが、品質や生産性などそれぞれに特徴があります。
複数のなめし製法からそれぞれの長所を取り込むことで短所を補おうとするのがコンビなめしの特徴です。
タンニンなめしとクロムなめしのふたつの製法を掛け合わせたコンビなめしですが、一度に同時のなめし処理を行うわけではなく、それぞれを順番に行います。
一般的にクロムなめしを行なった後にタンニンなめし加工を行うのですが、逆コンビなめしといって先にタンニンなめしを行い、その後にクロムなめしを行う加工法もあります。
植物を使ってなめすタンニンなめしの特徴
植物のから渋(しぶ)に含まれるタンニンをなめし剤として使い、プールのような大きな水槽(ピット槽)に皮を長期間漬け込みます。
タンニンと革のタンパク質を結合させるタンニンなめしの革は、タンニン剤で染まった薄い茶色になります。
ヌメ革に代表されるように自然の風味を感じさせる素朴な感じの仕上った革は厚みがあり、あまり伸び縮みせず、型くずれしにくいのが特徴です。
またエイジングといわれるように、長く使い込んでいくと革の中に含まれるタンニンが酸化し味わい深い色味に変化していき経年変化を付加価値として楽しむことができます。
経年変化を楽しむタンニンなめし
経年変化を楽しむのがタンニンなめしの特徴なのですがエイジングの進行度合いが他の革よりも大きいのでこまめなメンテナンスが必要とされます。
これを短所と捉える見方もありますが、「手のかかる子ほどかわいい」感覚で革の成長と捉えて向き合うのがタンニンなめしの持ち味といえるとでしょう。
タンニンなめしにはこのような特徴がありますが表面加工を施さないため傷が目立ちやすくなります。
しかし表面の傷などは天然の皮革の証でもあり、使い込んでいくうちにそれが風合いとなり味わい深く感じることもできます。
タンニンなめしは革の芯までなめし剤であるタンニンを浸透させるのに長い期間を必要とするため大量生産するには大きな水槽などの設備と時間が必要となり、効率よく生産するのが難しいといえます。
化学薬品を使う姫路レザーならではのクロムなめし
姫路レザーならではのクロムなめし。
植物ベースのタンニン剤に対して塩基性硫酸クロム塩という金属ベースの化学薬品を使ってなめし処理を行います。
タンニンなめしはヨーロッパを中心に1000年以上の歴史のあるなめし製法ですが、クロムなめしは20世紀になって発明された画期的な製法で皮革産業に飛躍的な発展をもたらしました。
タンニンなめし比べて処理時間が短く、生産量が世界の革の8割はクロムなめしの革といわれています。
なめし処理ではタイコと呼ばれる大きなドラム式洗濯機のような機械の容器の中で皮となめし剤となるクロム入れて容器を回転させながら皮になめし剤を浸透させていきます。
この処理でなめし剤のクロムに染まった淡い青色の革はウェットブルーと呼ばれています。
軽くて強いクロムなめし
ウェットブルーのクロムなめしの革は丈夫で厚みが薄くても強度があり、軽量化できるのが特徴です。他の革と比較して熱や火にも強さを持っています。
弾力性もあるので靴など加工には適しています。また、染色性が高く発色性があるのでカラーバーリエーションが豊富です。
機械であるタイコを回転させてなめし剤を浸透させるため、なめし処理は1日で完了します。この短時間のなめし処理がクロムなめしの大量生産が可能の要因となっています。
また、タンニンを含まないのでヌメ革のようなエイジングによる革の風合いの変化は期待できません。
エイジングがないということでヌメ革に比べてメンテナンスの手がかからないのですが面白みに欠けるともいえます。
コンビなめしの特徴について
これまでご紹介したタンニンなめしとクロムなめしの両方の特徴を取り入れたのがコンビなめしです。
つまり、エイジングの経年変化で風合いを楽しむことができ、熱や火にも強く、薄くて強さと柔らさを持ち合わせた革ということになります。
ただし、コンビなめしの革がタンニンなめしのエイジングやクロムなめし強さと柔らかさを持ち合わせているからといってもオリジナルのなめしと同等ということではありません。
エイジングだけをとりあげればタンニンなめしの方が経年変化や風合いの増し方の度合いは大きいですし、強さや柔らかさであればクロムなめしの方がスペックとしては上になります。
個々の長所に関してはオリジナルのなめしの方が優れています。
両者の長所を取り込んだコンビなめしの革は、ゆっくりではありますがエイジングを味わうことができ、最初から柔らかくて使いやすいので実用的な革といえるかもしれません。
コンビなめしの革の代表的な使用例としては野球のグローブなどがあります。
丈夫で伸縮性があり長く使えて風合いも楽しめるので素材としてはぴったりですね。他にもエイジング感をだす靴や革小物などにも使われています。
moeではブランドを設立し、トートバッグ、3Wayバッグの開発段階からコンビなめしにの特性に注目して革のバッグづくりに適した加工法として採用しています。
品質を左右するコンビなめしの脱クロ処理
タンニンなめしとクロムなめしの両方の特徴をあわせ持つことができるコンビなめしてですが、その製法でもっとも特徴的で品質を左右する重要な処理が「脱クロ」です。
脱クロとはクロムなめしで処理した皮から、なめし剤であるクロムを抜き取り、その後にタンニンなめしで再加工する処理です。
コンビなめしは最初にウェットブルーとなるクロムなめしを行い、その後に脱クロ処理を行なって再度タンニンなめしを施します。
この時、最初に処理した皮から完全にクロム剤を抜き取るわけではなく、意図的にクロム剤を残した状態にてタンニンなめしを行います。
このように処理を行うことによってクロムなめしの特性を保持した状態でタンニンなめしの特性を取り込むようにしています。
この時のクロムとタンニンの割合によって革の品質を大きく左右することになります。
クロムとタンニンの比率で品質が変わるコンビなめし
いったんクロムなめしの処理を行なったウェットブルーの皮からクロム剤を完全に抜き取って0にすることは非常に難しく(0にしてしまえばコンビなめしの意味がなくなってしまいますが)、残留するクロムとタンニンの割合の調整が重要となります。
タンニンの割合が多ければエイジングの度合いが大きい固めの革になり、クロムの割合が多ければエイジングしにくい革になります。
なめし処理は素材となる皮革の大きさや厚みの他に、その時の気温や湿度、水温などさまざまな条件が影響を及ぼします。そのためタンナー(皮革工)の知識と経験が求められます。
moeでバッグ作りに使う革素材も同様で、革のバッグが作られる毎にバッグの出来上がりを観察したり、工房さんにヒアリングしながらタンナーさんと相談して革素材の品質改善に取り組んでいます。