姫路には多くのタンナーが集まり、皮から革へと生まれ変わる鞣し(なめし)工程を工場で見学することができます。
タンナー工場の見学で印象に残るのは、独特の匂いとタイコと呼ばれる木製の大きな樽を回転させる機械。
タイコはなめし処理で使われる定番ツール。
皮のなめし・染色といった工程で活躍するタンナー工場になくてはならない機械装置です。
なめし処理で大活躍、大きくて回転するタイコとは
タイコとは、大きな木製の樽のような形をした容器が回転する機械装置です。
タイコの内側には10cm程度の突起物がいくつもあります。
この突起物に皮が引っかかり、タイコの回転で薬剤をかき混ぜ、浸透させています。
タイコの大きさは高さ3〜4m、幅5m程度のものが多く、容量によってサイズが異なります。
木製のものが多いですが、金属製のドラム缶形状のタイプも見られます。
タイコでの作業は大量に水を使い、原皮の水洗いやなめし・染色などの工程で活躍します。
なめしや染色を行うタンナー工場では必須の設備です。
大きな工場では使われなくなった廃棄予定のタイコが屋外に移動されている光景も見られます。
原皮洗いや脱毛、なめしで活躍するタイコ
工場見学では皮の製造工程順に説明を受けながら進んでいきます。
タンナー工場に入ると最初に感じるのが、原皮と呼ばれる塩漬けされた牛皮や馬皮の独特の匂い。
皮革の製造工程は、原皮に付着している塩分や血液などを洗い落す作業から始まります。
そして、水洗いした原皮を石灰に漬けにして繊維をほぐし、毛や脂肪を除去していきます。
これらの工程で早くもタイコが活躍します。
その後、原皮の脱毛・脂肪除去や厚みの調整などの作業を経て、なめし処理を行います。
なめしや染色など工程別にタイコを使い分ける
タイコは、原皮の水洗いや石灰漬け・脱毛処理の他、複数の工程で活躍します。
それぞれの工程で作業目的に応じでサイズや容量が異なる専用のタイコが用意されています。
例えば、なめし処理では皮と一緒に専用の薬剤を使い、タイコを回転させて皮に浸透させていきます。
その後、仕上げ塗装の下地となる色付けや柔らかさなどを調整する作業でもタイコが使われますが、別のタイコを使用します。
それぞれの工程で使用する薬剤が異なり、タイコの内側に残留物なども付着する恐れがあります。
また、毛や脂肪のついた原皮と、なめしや染色処理される脱毛・厚み調整された皮では同じ皮でも容積や重さが変化するのでサイズの異なるタイコが使われます。
タイコを使わないヌメ革のタンニンなめし
経年変化で変化を楽しむタンニンなめし
皮のなめし処理で代表的な製法のタンニンなめしとクロムなめし。
タンニンなめしとは、バッグや財布などで人気のあるヌメ革の製法です。
植物の渋(しぶ)に含まれるタンニンという成分がなめし剤として使われています。
エイジングといわれる経年変化で、使い込む程に味わい深い色に変化していくのが魅力のひとつ。
タンニンなめしは、大量のタンニン剤でいっぱいにしたピットといわれる水槽に皮を漬け込み、浸透させるため時間がかかるのが特徴です。
20世紀の発明、強くて加工しやすいクロムなめし
タンニンなめしに対して、化学薬品を使うクロムなめしは靴やベルトなど幅広く使われている革のなめしです。
クロムなめしは、タンニンなめしに対して製造コストが低く、大量生産しやすいのが特徴です。
20世紀になって発明された画期的な製法で、皮革産業に飛躍的な発展をもたらしています。
タイコで大量生産できるクロムなめし
タイコで作業時間が短縮でき、大量生産が可能なクロムなめし。
皮をピットに漬けるタンニンなめしの処理は数週間の時間を必要とします。
それに対し、タイコを回転させてなめし剤を浸透させるクロムなめしは1〜2日で処理されます。
なめし処理の時間が短いので生産性が高く、多くのタンナー工場で行われるクロムなめし。
世界で生産される革の8割はクロムなめしの革といわれています。
火や熱に強く、柔軟性もあるので加工しやすく、多くの革製品に使用されています。
タイコとピッチのなめしの違い
タイコが主流のクロムなめしに対し、ピッチ(水槽)に皮を漬けるのが主流のタンニンなめし。
タイコとピッチのなめしそれぞれにおいて仕上がる革に違いがあります。
タイコの場合、回転する容器の中の突起物に引っ掛かり、皮をほぐしながら薬剤を浸透させます。
繊維もほぐれるので浸透する時間が短縮されます。
ピッチの場合、薬剤で満たされた容器に皮を漬けて繊維に染み込んでいくのを待つ状態となるので時間がかかります。
そして、タイコのように皮がほぐれることがないので繊維は締まった状態です。
クロムなめしは化学薬剤で強さや柔らかさなど品質を強化していきます。
木や植物の皮や根、果実などを使ったタンニンなめしは、クロムなめしのような薬剤処理は行われません。
タイコやピットは、皮から革に生まれ変わる瞬間で品質に関わる大事な役割を持っています。
タンナーはそれぞれの仕様で皮に与える影響を考えてオーダーされる革に合った品質を追求します。
このようにクロムなめしや、タンニンなめしではそれぞれの特性や品質を考慮してタイコやピッチ漬けなど条件に合わせた処理方法が選択されています。